10世帯に1世帯が暮らすほど定着した分譲マンション

高まる永住意識  6割の人が「永住するつもり」と回答

分譲マンションの居住者に永住意識を尋ねたところ、62.8%の人が「永住するつもり」と回答しています。分譲マンションを“終の棲家”と考えている居住者が増え続けているのです。

この調査結果は国土交通省がおよそ5年ごとに実施している「マンション総合調査」の<平成30年度分>で明らかになりました。当初は57.0%の居住者が「いずれは住み替えるつもり」と答えていたのですが、40年近くの歳月を経て、永住意識は完全に逆転しました(図表1)。かつては一戸建て住宅へのステップと捉えられていた分譲マンションが、住宅すごろくのゴール(終の棲家)として選好されるようになりました。

【図表1】分譲マンション居住者の永住意識

(出所)国土交通省「平成30年度マンション総合調査」

とはいえ、手放しで喜べそうにはありません。疑問なのが、永住できるだけの管理基盤を分譲マンションは本当に具備しているのか?―― 残念ながら前途は多難というのが個人的な見解です。

わが国のマンション史を振り返ると、共同住宅の先駆けとなったのが「同潤会アパート」です。関東大震災(1923年・大正12年)の復興住宅として、大正末期から昭和初期に東京・横浜の16地点で建設されました。

また、住宅難への対処として都市不燃化を目的に東京都が1952年(昭和28年)に建設したのが「宮益坂アパート」(東京都渋谷区)です。さらに東京・新宿区の「四谷コーポラス」(1956年・昭和31年完成)も忘れてはなりません。日本で初めて民間企業が販売した分譲マンションです。現在はいずれも姿を変え、商業施設や再建マンションとして第二の人生を歩み始めています。

その後、1964年(昭和39年)の東京オリンピックを契機に日本経済は飛躍的に活発化し、マンション開発も大きく進展しました。高度経済成長期には多摩ニュータウンを始めとする大規模団地が開発され、また、公団や公社により多くの団地型マンションが供給されました。

いまや全国のマンションストック数は約675万戸(2020年末現在)に達し、居住人数は推計1573万人。およそ全国民の10世帯に1世帯が生活するほど身近な居住形態として定着しています。分譲マンションは完全に市民権を手中に納めました。  

忍び寄る「建物の老朽化」と「居住者の高齢化」という2つの老い

しかし、誕生から70年余り。分譲マンションは身近な居住形態として認知された一方、時代の変化に順応できなくなりつつあります。高度経済成長期以降に建設された大量のマンションが高経年化し、(1)建物の老朽化と(2)居住者の高齢化という「2つの老い」に直面しています。

国土交通省によると、2020年末現在、築40年超のマンションは約103.3万戸あり、それが10年後の2030年には約232万戸(約2.2倍)、20年後の2040年には約404万戸(約3.9倍)になると予想されています。マンション高齢時代の到来です。

マンションの高経年化というと、誰しも気になるのが「建物の老朽化」です。雨漏りや給排水管からの漏水、外壁の亀裂、鉄部のさび、エレベーターの故障など、築年数の経過による「物理的な劣化」が頭をよぎります。

劣化には「機能的劣化」と「社会的劣化」もあります。高度経済成長期に大量供給されたニュータウンの多くはエレベーターもオートロックもありません。バリアフリー化や省エネ性能・耐震性能も不十分です。機能面での見劣り(機能的劣化)は避けられません。

また、間取りに「家族1人にひと部屋」という部屋数を求めた時代から、核家族化に伴い、ひと部屋の広さを重視する傾向が強まりました。同じ専有面積なら3DKより2LDKが好まれる時代です。こうした社会的要求水準との不一致を「社会的劣化」と言うのですが、築後年数が経過すればするほど3種類の劣化も同時進行します。マンションの持続可能性は揺らぎ、終の棲家には相応しくなくなっていくのです。

加えて「居住者の高齢化」も深刻です。前出の「平成30年度マンション総合調査」によると、世帯主年齢60歳以上の割合は49.2%でした。2世帯に1世帯が高齢者世帯というわけです。過去を振り返ると、20年前(平成11年度)が25.7%、10年前(同20年度)が39.4%でした。高齢化の進展は疑う余地がありません。  

【用語説明】3種類の「劣化」とは?
《物理的な劣化》

雨漏りや給排水管からの漏水、外壁の亀裂、鉄部のさび、エレベーターの故障など、築年数の経過による建物や設備の腐食・損耗のこと

《機能的な劣化》

新築当時にはなかった高性能な設備や機器が開発されることによって、当初の設備機器の性能そのものが低下しているわけではないにもかかわらず、相対的な評価として機器の機能が劣化(陳腐化)する状態のことをいう

《社会的な劣化》

居住者のライフスタイルの多様化や、生活するうえでの要求水準が時代とともに高まった結果、これまでの建物や設備の状態では対応できなくなることをいう

管理組合の役員就任を断る理由「高齢のため」が第1

では、高齢化の進展によってマンション管理にどのような悪影響が生じるのか?―― 今般、役員のなり手が不足しています。

マンション総合調査によると、居住者の36.4%の人が高齢を理由に役員就任を断っているのです(図表2)。「面倒くさいから」という回答も18.2%ありました。管理組合の役員は良好なマンション管理を行う上で重要な役割を担っています。資産価値の保全にも努めなければなりません。精神的にも肉体的にも、決して楽な仕事ではありません。

【図表2】役員就任を引き受けない理由 (重複回答)

(出所)国土交通省「平成30年度マンション総合調査」

高齢化の弊害は、ほかにもあります。管理費や修繕積立金(以下、管理費等)の滞納者が増えやすくなります。年金暮らしの高齢世帯にとっては、月々2万~3万円程度の支払いでも家計に重くのしかかるのです。

こうして滞納額が積み上がった最中に、不幸にして管理費等を未払いのまま亡くなるケースもあり、特に単身高齢世帯の場合、管理組合は未収分の回収が困難になります。なぜなら、管理費等の未収分は相続人に請求できるのですが、その相続人の所在が不明、あるいは連絡が取れても相続放棄してしまうケースが散見されるからです。いうまでもなく、住戸(空き家)を管理組合が勝手に売却することはできません。法的手続きが必要になります。こうした作業はすべて役員の仕事となります。

管理組合が煩わしいと感じる人は分譲マンションに住まないほうがいい

マンション管理の良し悪しが住み心地を左右する

こうして役員の苦労面ばかりを列挙すると、“役員アレルギー”(拒絶反応)を起こす人がいるかもしれません。ただ、管理会社がサポートしてくれますし、すべてを1人で抱え込むわけではありません。費用はかかりますが、外部のコンサルタント会社に相談するのも一案です。重要なことは当事者意識を持って、積極的に向き合おうという前向きな姿勢です。

マンションに永住しようと思っているのなら、なおさら他人任せは厳禁です。30年もの住宅ローンを組んで手に入れた自分の“城”の住み心地を良くするのも悪くするのも本人の努力次第です。愛着のあるマンションであれば、ぜひ可愛がってあげてください。

それでも管理組合活動が煩わしいと感じる人は、分譲マンションに住まないほうがいいでしょう。賃貸生活あるいは一戸建て住宅に住むべきです。分譲マンション生活には、それなりの「リスク」と「覚悟」が求められるのです。ヴィンテージマンションに仲間入りするためにも、マンション管理の重要性を認識してください。その努力は必ず報われます。