これまでの日常は戻るのか、緊急事態宣言が解除

※掲載記事は2020年5月時点の内容です。

5月14日、39県で緊急事態宣言が解除されました。4月7日に7都府県で発令され、同16日には全国へと対象地域が拡大されましたが、5月31日の期限を待たずして、感染拡大を防止できるレベルまで抑え込めたと判断した地域の宣言解除に踏み切りました。これにより、営業自粛していたマンション分譲業者は段階的に販売を再開し始めると予想されます。不動産取引の正常化へ向けて、一歩前進といえるでしょう。

とはいえ、かつての日常が戻ると思っている人は少数派と考えます。感染リスクはゼロになっていないからです。14日の記者会見で、安倍首相は「感染者の増加スピードが高まれば、2度目の緊急事態宣言もあり得る」と注意を喚起します。引き続き感染リスクを意識した行動を心掛けるよう促します。気を緩めたら感染は再び拡大するのです。

今後、新築マンションの販売方法は見直しを余儀なくされるでしょう。「大量集客」「大量販売」は難しくなり、「第1期1次」「第1期2次」「第2期1次」といった期分けの細分化が不可避となります。

引き続き、3密(密閉・密集・密接)状態にならないよう、ソーシャルディスタンス(人と人との距離を意識的に取る)の徹底が求められる中にあって、販売センターやマンションパビリオンに大勢の来場客を呼び込むわけにはいきません。必然的に、各期の販売住戸も減らす必要に迫られます。“小出しに”よる販売方法が進展すると個人的には考えています。

マンション販売において「鮮度の維持」は至上命題

ここで改めて、なぜ新築マンションは期分け販売されるのか?―― その理由を再確認しておきましょう。

期分け販売には大きく2つの理由があり、まず1つ目が客付けを平準化させる狙いがあります。一昔前なら総戸数が200戸程度でも「大規模マンション」と呼ばれていましたが、近年、さらなら高層化・大型化により、今日では500戸以上が「大規模」の目安へと変わりました。

当然、販売戸数が多くなれば、どうしても住戸によって人気(売れ行き)にバラツキが出て来ます。営業サイドから見た場合、「売りやすい住戸」と「売りにくい住戸」が混在するようになるのです。

そのため、満遍なく客付けするには、バラツキを修正する必要があります。全体として「人気のない」=「売りにくい」住戸ばかりが残らないよう、各期で人気・不人気住戸を配分するのです。要は、期分け販売することで“人気差”を解消しようというわけです。これが期分け販売する第1の理由です。

そして、もう1つの理由が「鮮度の維持」です。これは分譲マンションに限った話ではありませんが、ある商品を売り出そうとした場合、販売時に「新しさ」をアピールするのはセールスの基本です。新しいもの好きの日本人にとって、「新規発売」というフレーズは魅力的に映ります。

たとえば「第1期3次の新規発売」、続いて「第2期1次の新規発売」というように、期ごとに「新規発売」として広告展開することで、常に“鮮度”が保たれます。もし、全戸をいっせいに販売開始し、未契約住戸が発生したとすると、その住戸は一度売りに出した以上、二度と「新規」として販売できません。広告上、売れ残りとして扱わなければならないのです。

そこで、売れ残りを作り出さないよう、期分けして慎重かつ確実に売っていく必要があります。これは結果として、営業マンなどの作業量(マンパワー)の負担軽減にもつながります。

新築マンションが期分け販売する2つの理由
  1. 「売りやすい住戸」と「売りにくい住戸」の人気差を解消するため
  2. 「新規発売」を繰り返し、マンションの“鮮度”を維持するため

不動産取引にも、リモートの波が押し寄せる

新築マンション市場に再び春はやって来るのか……

上述したように緊急事態宣言が39県で解除されました。いずれは全国で解除宣言が発せられるでしょう。

しかし、日本の総理大臣が「コロナの時代の新たな日常を取り戻していく。今日(=39県で緊急事態宣言を解除した日)は、その本格的なスタートの日であります」と語るように、これまでの日常が戻って来るかといえば、答えは不透明です。

今日、“with corona”(新型コロナとの共生)を念頭に置いた、新しい生活様式の時代が始動しました。これに伴い、新築マンションは「小分け販売」へ移行します。必然的に販売スケジュールは長期化し、完売までは長い道のりを歩まなければなりません。鮮度の維持が困難となった結果、完売御礼は遠のくばかりです。

国土交通省は2014年、インターネット等を活用した対面以外の方法による重要事項説明の実現可否を探るべく、有識者からなる検討会を設置しました。テレビ電話や電子メールなどを駆使し、非対面で不動産取引を完結させる取り組みを模索しています。

一連の新型コロナ騒動により、不動産取引にも“リモートの波”が押し寄せるでしょう。今後も身を守るための行動が求められる中にあって、「大量集客」「大量販売」は陰をひそめるに違いありません。新築マンション販売にも変革の時が近づいています。コロナエフェクト(新型コロナの余波)は販売スタイルを大きく変える誘引剤となるのです。